ゲームに関するエトセトラ 〈その7:ウォーゲームって何?〉

つれづれ

あくまで個人的な意見ですが……

歴史ボードゲームとウォーゲームの違いとは? なんて話が話題になっているようです。

この2つにあまり大きな違いはないとは思うのですが、今回もまた「ゲームを作る立場」としてのあくまで個人の意見を書いてみたいと思います。

まずは「ウォーゲーム」という言葉が出てきますが、こちらが何故特別に言葉が切り取られて取り上げられているか不思議に思う人もいるかもしれませんので、ちょっと説明を。「ウォーゲームって何!?」ってことを抑えておかねば、話が見当違いな方向に行きかねないので、まずはこちらからですね。

ボードゲームのジャンルに戦争を題材に歴史的なディティールをゲームに織り込もうとする「ウォーシミュレーションゲーム」というジャンルがあります。結構古いジャンルの遊びで、実際に起った戦争を題材にした作品が多いことから、このジャンルの作品を「ウォーゲーム」と総称することが多いのです。

実は私も、一般的に話をする時にこういう使い方が「便利で楽」だから、軽く「ウォーゲーム」って言葉を使ってしまうのですが、細かく言うと意味は微妙に違ってくると理解しています。

ジェームズ・F・ダニガンについて

ウォーゲームの始祖とも言われているジェームズ・F・ダニガン氏は自身の著書『ウォーゲームハンドブック』で、ウォーゲームとは「闘争(=コンフリクト)を扱うもの全て」と記しています。氏の意見をそのまま捉えると、特に戦争を題材にした作品のみを「ウォーゲーム」と決めるのはちょっと強引すぎることになりますね。

私もダニガン氏の意見に感銘を受けたタチで、彼の言葉を今でも下敷きにしてゲームを作り続けています。なので、ゲームを作る上でこの言葉を忘れたことは一度もありません。

私がゲームを作るきっかけになったのは、いわゆる戦争を題材にしたシミュレーションウォーゲームがスタートでした。その手のゲームを遊び、作り続ける中で、戦争を題材にしないゲームを作ってみたいと思うようになったのです。それはラブコメ漫画を題材にした作品をウォーゲーム的な手法で作り始めたものだったのですが、作ったのは高橋留美子さん原作でアニメーションにもなった『めぞん一刻』でした。

戦闘のないゲームを作る

「恋の鞘当て」なんてものは、一人の目的となる人物を得るためにライバルと闘争を繰り広げるテーマであるわけで、ダニガン氏の言うことを体現するならば、これをゲームにすることは「ウォーゲーム」を作るにほかならない訳です。

『めぞん一刻』という原作があるわけですから、それを下敷きに物語をシミュレートしながら、ゲームとしてどうやって成立させるか? を考えることが重要でした。様々な原作を持つ版権モノの他のボードゲームを買いあさり、自分のゲーム制作の資料にならないかと検討したものもたくさんあったものです。ゲームを作る上で、ウォーゲームの魅力となった部分は、以前別の文章で書いていますので、下敷きになった物語をどうやって整理させるかの方法はそちらに書いたとおりです。なので、こちらでは割愛します。

あれ? ウォーゲームってそういうものなの……!? って流れになってきましたが、これでは「ウォーゲーム=戦争ゲーム」という流れにはなりませんよね。じゃあ、何故そうなったのかを少し書き加えておきましょう。

ユーロゲームとウォーゲーム

現在巷で人気のボードゲームですが、一部の作品はヨーロッパ圏では「ユーロゲーム」なる区分に入るものがあります。ボードゲームが日常の中に浸透しているドイツ辺りでは、第二次世界大戦までの影響から戦争を題材にしたゲームを作ることやプレイすることに対する抵抗が強いようで、戦争や戦いを連想するようなゲームは排除される傾向にありました。

その中で生まれた「ユーロゲーム」というくくりの作品に相対する位置として「ウォーゲーム」という言葉を便利に使っているのが、現在ウォーゲームという言葉が狭い範囲でしか使われなくなった理由になると私は思っています。最近ではその境界線は曖昧なものになっているような気もしますが、戦争を題材にしてテーマに沿ったルールが細かく充てられたボードゲームを特に「ウォーゲーム」と分類して呼ぶようになったようです。

ただ、現状の「ユーロゲーム」に対する「ウォーゲーム」という区切り方は、個人的にちょっと背中がムズムズする部分があるのです。

例えば、交易などをテーマに取引をアブストラクトに描き出したゲームがあるとすれば、これは何のストレス無く「ユーロゲーム」に分類されると思います。ただしこれが、交易をテーマにしたものでありながら、私掠船などから船団を守り、交易先の利権を得るために軍事力を背景に世界中を支配する作品となれば、これは「ユーロゲーム」に分類するとかなりグレーだと思います。

私掠船を排除する方法に戦闘のディテールが細かく再現されていて、ランダム要素を取り入れることによってその成否の判定を行うところまでゲームに描かれていなければ、それはあくまで「ユーロゲーム」だ! って主張することも可能といえば可能なのですが、軍事力の行使が外交の1手段ということは当然のことと理解できますし、やはり交易を題材としたゲームも闘争(=コンフリクト)を再現した「ウォーゲーム」って分類になると思います。

闘争(=コンフリクト)

ダニガン氏の言葉を借りれば、闘争(=コンフリクト)は全てウォーゲームなのだから、プレイヤー同士が競技する時点で勝敗を競うと言うコンフリクトが生まれるので、全てウォーゲームって分類になるんじゃね? ってことになる訳です。

さてさて、ややこしくなてきましたw

じゃあ、「ユーロゲーム」もウォーゲームってことなの? ということになるのですが、ゲームを作る視点から話をするならば、私はそうだと思いますし、別けて話をすることはナンセンスだと思っています。

ただし、大きく分けて戦闘そのものに主体をおいたルール構成になっており、その場のディティールをより歴史や題材(=原作)に沿って再現しようとしているゲームは、個人的に「ウォーゲーム」、言い換えると「ウォーシミュレーションゲーム」と呼ぶことにしています。

細かいことどうだっていいだろ? って言う話なのですが、案外ゲームを作るって立場で考えると、こういう細かな分類の理解って重要になってくることがあるのですよ。

2019/5/20

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