ゲームに関するエトセトラ 〈その3:妻のヒトコト〉

つれづれ

完成したゲームをプレイしてもらうときに、製作者側とプレイヤーの間に著しい温度差を感じるときがあります。それはショッキングな出来事でもあるのですがとても重要なことと思っていまして、初心を忘れちゃいけないよなーと常々思うことが。

先日、突然妻がボードゲームを作ってみたいと言い出したのです。私の作っているボードゲームの中には、彼女のアイデアを全面に取り入れたものも多く、ゲーム制作のエッセンスとして彼女のアイデアは今では欠かせない部分を締めているのも事実です。

それならば、一度作ってみたら? と見守ることにしました。

実は彼女、ボードゲームとは全く無縁で、ほとんどゲームをしたことがありません。初心者という言葉もおこがましいほどの人なのです。

なんだよ、未経験者がゲーム作りなんて、ちゃんちゃらおかしいよなー

なんていう人がいるかも知れませんが、私は全くそうは思いませんね。「ゲームを作ってみたい」という動機はとても大切なことで、未経験者が持っている発想と切り口にとても興味があり彼女に是非やってみたらと、ゲーム作りを勧めてみたのです。

ゲームを作る上で、まずは自身がいくつかのゲームを経験しておかねばならないと思ったのでしょう。試しに私の作ったカードゲーム『Fish! Dash! Cash!』を2人で遊んでみることにしました。

Fish! Dash! Cash! (フィッシュ! ダッシュ! キャッシュ!)
Fish! Dash! Cash! (フィッシュ! ダッシュ! キャッシュ!)

この作品、妻のアイデアから生まれたゲームで、キャッチーなタイトルは彼女が編み出したものです。今まで彼女はタイトルと設定を私に与えてくれて、それを下敷きになにか良いシステムがないかと私がこねくり回してゲームを作ることがほとんどでした。『ぐるぐるにゃーす』もそうですしね。

ぐるぐるにゃーす
ぐるぐるにゃーす

ただ、今回は彼女が作ると言っているので、そうはいきません。まずは情報収集からやろうと思ったのでしょう。で、実際ゲームをやり方説明してプレイしているうちに、彼女の顔色が苦悶の表情にだんだん変わってきました。

(なるほど、そうか……)

プレイし終えて、正直に彼女に聞いた所、やっぱりこのゲームは「難しい」という結論になりました。何が面白くて、何をしなければならないのかが分からない。

なるほど、ボードゲームに興味のある人や経験者にゲームを説明するときには、「トリックテイキングをベースにしたお金儲けのゲーム」と言って分かったとしても、全くボードゲームに慣れていない人だと全てが聞き慣れない「専門用語」になるのです。

「それ、無知なだけで頭が悪いんじゃねーの!?」

って揶揄する人がいたら、私は最大級の殺意を持ってありったけの悪意に満ちた暴言を彼らに叩きつけると思いますが、じゃあ全くゲームを知らない人って、さあて、どれだけいるでしょうか?

大体、幼少の頃に『トランプ』『オセロ』、うまくやれば『将棋』『UNO』『人生ゲーム』なんてのは遊んだことがあると思います。妻は『人生ゲーム』は私と結婚するまで遊んだこともないし、存在すら知らなかったようですが、彼女と『オセロ』をして私は勝ったことがありません。それどころか、最後までプレイさせてもらえず、盤面が真っ白になって自分の駒が置けなくなり負けることがほとんどです。

ウォーシミュレーションゲームなんて戦略や戦術、駒の差配に重点を置くようなゲームを好んでプレイしたりそれを作る私が『オセロ』で彼女に勝てないという時点で、彼女の持っているゲーム的なセンスや頭脳はどういうものか証明はできると思います。

妻のことを一例に取ると、案外ボードゲームの認知度は上がったとか、「重たいゲーム」や「軽いゲーム」と呼ばれているゲームの区分けなんて、ボードゲームを知っている一部のグループでの区分けであり、「これ簡単だから」という切り口は、ボードゲームに興味を持っている未経験者に接する際は〈過分の注意〉が必要なのだ、ということだと思うのです。

言葉が悪く極論かもしれませんが、ボードゲームのブームなんてものは「この程度」で、一般人にはまだまだボードゲームは浸透しておらず、難しい特殊なホビーであることは、ゲームを作る立場の人は常に頭の隅に入れておかねばならない、と私は考えています。

ちなみに、『Fish! Dash! Cash!』の件もあり、ちょっとがっくりきた妻に対して、すかさず彼女に合うゲームはないか? とはじめから準備していた『マンカラ』を勧めてみた所、これが大ハマリでした。

マンカラ
マンカラ

単純かつ目的がしっかりしていて、足し算引き算というような生活に密着した「文法」でゲームを組み立てていけるので、こっちのほうが彼女にとって親和性は高いと思っていたのです。実は、こういう展開になることは始めに薄々感じていました。ただ彼女自身が『Fish! Dash! Cash!』をやってみたいというので試しにプレイしたのですが、2人しかいないことと、システムがトリックテイキングっぽい点や勝利するための戦術がテクニカルな部分、経験値がゲームに対する面白さを左右すると思っていたのです。

ゲームを作る際に、一番必要なことは「余分な要素は全て削り取ること」と言われています。ゲームに要素を盛り込み過ぎとは思わなくても、自然とルールや要素が多くなりすぎていることは多々あり、削りすぎるに越したことはない……なんて言われるほどですからね。このバランスが作る側とプレイする側の「温度差」になることも多々あるのですが。

ところで妻のゲーム作りは現在止まっています。彼女は、ゲームのアイデアを私に提供するほうが良いと思ったらしいことと、彼女の考えた設定を私が形にしたほうがより良いと思ったみたいです。

しかし私は、彼女がいつかまたゲームを作りたい、という日が来ると思っています。

それだけゲームを作るって作業は、面白く興味が持てるものだと思っていますし、そう言う時にこそ自分の経験を活かしてゲーム作りのイロハを教えてあげたいと思っています。それは妻に限らず、他のゲームを作ってみたいと思う人に対しても同じ気持ちなんですけどね。

2019/5/8

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